杉構造材の強度

「 杉を構造材に使用するのは、強度的に不安があります 」
「 無垢の木にはひび割れが入りますが、これって大丈夫なの? 」

見学会を行っていると、こんな声をよく聞きます。
さて、実際どうなんでしょうか?
チャンとお答えできるように調べてみました。

▼ 杉の強度へ ▼ ひび割れと強度の関係へ

杉の強度

地域的な背景

播州地方は、約40〜50年前まではの文化圏でした。
その地に生えている松を伐採して、建築用材に使用していました。地産地消の典型的な例です。
その松よりも高級なもありました。『栂普請』(とがぶしん、正確には、つがぶしん)と言って大変上品で高級な家でした。お医者さんや先生の家に良く使ったようです。(右の写真は、昭和35年頃の自宅とぼくの鯉のぼり(^^)v)

昔は『山師』が立木を購入して伐採し、馬力(ばりき)で製材所に売りにいっていました。施主は製材所で材木を仕入て、大工に家を建ててもらっていました。また、家を建てる施主が直接山師に頼んで、丸太を調達してもらう事もあったようです。その松が段々と少なくなり、大きな丸太も無くなりその代用として外材(米松)に切り替わるようになりました。
余談ですが、その原因のひとつにゼロ戦の燃料があります!?
戦時中に石油が少なくなり、松から採った松根油(しょうこんゆ)を精製して飛行機を飛ばしていたそうです。

松か杉か?

播州で育った年寄りの大工さんの話を聞くと、殆んどの方が『杉は柔らかくて身持ちが悪いけど、一番エエのも杉やし、反対に一番悪いのも杉』と言われます。松が無くなってきた時に近所に生えている、良い杉を使えばエエのは分かってはいるが、高くついてしょうがない。だから、米松を使用する流れになったのだと思います。

前置きが長くなりましたが、大工さんが言うての通り、杉は松に比較して強度は劣ります。
では、どの程度の違いなのでしょうか?調べてみましょう。

部材の名前

横架材には垂木、棟木、母屋、梁、桁、根太、ささら、胴差し、土台等があります。

写真で説明すると、基本的に床荷重だけを受けるのが【ささら】です。
【胴差し】は基本的に通り柱と通り柱に架けられ、ささらからの床荷重に加え、上階の壁荷重及び屋根荷重を受けます。

試算する部材

構造計算をする場合、それぞれの部材が受ける力が異なり計算方法も違います。例えば柱の構造計算では台風の時の風圧力と筋違を考慮し、どれほどの圧縮力に耐えられるかを計算します。 その結果を見ると、最も厳しい条件の柱でも設計基準をクリアーできます。
全ての部材について計算するのはチョー大変なので、ココでは【ささら】と【胴差し】について計算してみます。

判断の基準

横架材の強度は曲げに対する強さと、たわみに対する強さに分けられます。

● 曲げ破壊
左のように真っ直ぐな梁に荷重を加えていくと最終的には右の写真のように曲げ破壊します。
破壊する時の強度を「1」としてどれ位安全か?(余裕があるか)を数字で示したのが、曲げ破壊判定です。
この数字が小さいほど安全と言えます。

 

● たわみ量
一方、たわみは下の写真のように、荷重を加えた時のたわみ量(赤い矢印)が梁スパンの1/600以下ならOKとします。
例えばスパンが4mの場合、0.66cm以下ならOKとします。モチロン、この数字が小さいほど安全と言えます。

計算条件

・ささら
 床荷重は130Kg/u+自重45Kg/u=175Kg/uで計算します。
 4mのささら1本に74Kgの人が7人載ったイメージです。

・胴差しの荷重
 床の組み方や荷重状況により一概には言えないのですが、ココではささらの175Kg/uに、壁と屋根の荷重として
 260Kg/uを加え435Kg/uで計算します。

・胴差しの断面欠損
 胴差しにはささらを掛けるために受け口を加工します。その断面欠損を一律20%マイナスします。

・材料の強さ
 一口に杉や米松と言ってもその強度は一様ではなく、大幅に開きがあります。

ここでは、杉は仕入先の森昭木材の出現率データをみると殆んどがE70以上ですので、これを計算対象にします。
米松は中国木材のドライヒビームのE110を対象にします。

材料の設計強度(基準強度X1.1/3 緑色の行の値で計算しました。)

◎ これを見られている、構造の専門家の方へ
 一般の方にわかりやすく、簡単に説明していますので、例えば「床荷重は等分布荷重で計算するのに、上の写真は集中
 荷重やないか」等と専門的な突っ込みはご遠慮下さいませ。

▼ ささらの強度計算結果

▼ 胴差しの強度計算結果

結果の考察

当社で使用する材の曲げ破壊では、最大でも0.4と、随分余裕がある事が分かります。 殆んどの場合、横架材の強度は
【 たわみ 】で決まります。 杉ささらの4m×12cm×24cmの場合、たわみ量は6.2mmです。これ以上たわみが大きく
なれば床の上をビー玉がコロコロと転がる等とクレームの原因になりかねません。

曲げ破壊の場合、梁成の2乗に比例しますので、強度を出すためには梁巾を大きくするよりも梁成を大きくする事が
とても有効
です。

構造的にはたわみで材の寸法が決定されますので、杉はたわみ易いのが欠点であると言えます。 しかし、同じランクで
ある杉の曲げ強度は米松を上回ります。 ですから、杉はたわみ易いけれども粘り強く破壊には強いと言えます。


★仕入先の森昭木材さんに杉構造材の強度をたずねた所、以下の回答が届きました。

いつも大変お世話になっております。

ヤングデータの集計表を添付いたしております。

内容は、2003年4月より採った25棟分の横架材測定データを集計したものです。
全て高知県嶺北産の原木を使用しています。
高知の杉は、下の表にある通り全国平気よりも高いデータが出ています。

出現率のデータは基本的に、3m〜9mで梁背210以上の寸法の材を測定しています。
また、6m以下の材は、E70以上の確率の非常に高い2番玉を製材しております。
(7m以上は2番玉はなかなかないので・・・)
★注意:立木の根元から元玉、2番玉…といいます。

このデータより、元玉を使わずに構造材を製材、乾燥するとほとんどがE70以上に
なります。

下の杉と米松の基準強度比較の表を参考にすると、米松のE110に相当する強さが
期待できます。杉の粘り強さの証明です!

また、スパンが飛んでしまう横架材がある場合、E90指定をしていただきましたら、
測定して出荷いたします。(測定費=300円/本)

何か不明な点がございましたら、ご連絡下さい。

色艶と強度を合わせ持つ嶺北の杉。この素晴らしい素材を活かすため、もっともっと、
製品のレベルアップに努めてまいります!

よろしくお願い申し上げます。

ひび割れと強度の関係

右の写真の右端の材木のようにひび割れが入った木材があります。又、家を新築してから3年間程は、乾燥した冬の夜中にバシッ!と木が割れる大きな音がします。
無垢の材木には、割れがつきものですが、これって強度的に大丈夫なんでしょうか?心配になりますよね。

安心して頂くために調べてみました。
仕入先の『おぎもく』さんに相談すると、『スギ構造材の干割れが力学的性質に及ぼす影響』と言う資料をコピーしてくれました。これは宮崎県工業試験場の荒武志朗氏他3名の方が実験、研究された結果です。これを要約して説明しましょう。      出典:木材工業Vol.48

先ず、杉は乾燥しにくい事があげられます。杉の心材と辺材の境には白線帯という水分を通しにくい部分があります。
ここにはが有り、伐採された瞬間に自分の命を守ろうと内部の水分を放出しないように閉じてしまいます。 杉の内部まで均一に乾燥させようとすると、水分傾斜が大きく、辺材は乾燥しやすいので割れが入ってしまいます。だから自然乾燥させた杉には表面割れが多く出現します。
割れが入らないようにその乾燥方法に様々なノウハウがあります。
極端な例では、見かけをきれいにする為に乾燥温度を115℃程度まで上げて表面には割れを出さずに、内部で割れるようにする方法もありますが、杉の精油分がぬけてしまいますし、ホゾやアリの仕口の大事な部分が割れる事になるのであまりお勧めできません。

  

実験結果

《 スギ構造材の干割れが力学的性質に及ぼす影響 より 》
さて、 この研究では、宮崎産の3m×105cm×105cmの杉芯持ち材を乾燥し、ひび割れを発生させた。
この供試体のひび割れ面積を測定し、ひび割れが曲げ強さ及び曲げヤング係数に及ぼす影響を調べた。

ひび割れが曲げ強さに及ぼす影響
上のグラフから、それぞれの関係には正の相関関係が認められ、ひび割れが顕著なほど曲げ強さは高い傾向を示している。また、ひび割れによって縦断面が欠損した材であっても、曲げ強さが低いとは言えず、むしろひび割れを生じやすい材の曲げ強さは、材質的に高い事が示唆された。

「エーッ?」と思われるかも知れませんが、そういう事のようです。ぼくも最初は「ホーッ」と唸りましたモン。
さらに、この実験結果ではないですが、木材は乾燥するにつれて、その強度は高くなります。生木の状態から気乾状態まで乾燥すると、約15〜20%程度強度が上がる事が知られています。

ひび割れが曲げヤング係数に及ぼす影響
曲げヤング係数との関係でも正の相関関係が認められ、しかもこの傾向は曲げ強さにおける場合よりもさらに著しい。ひび割れを生じやすい材は曲げヤング係数の高い材料であると考えられる。
ひび割れの予測指標
ひび割れと年輪巾との関係を調べた。すると年輪巾が小さい程ひび割れ面積が大きい相関関係が得られた。さらにグラフには記載されていないが、外周部の年輪巾との関係を調べると相関関係はさらに高くなった。この事から、ひび割れに対する年輪巾、特に外周部年輪巾の関与が認められた。

結果の考察

以上の結果より、年輪巾の小さい材程ひび割れが大きくなり、結果的に強度も高いと推察できます。

この結果を見て、大工が判断していた経験値が裏付けられてとても嬉しいです。
反対に悲しいのは、乾燥する場合に、材の良い面から順に割れていく事も実証されました。
(これには材木屋さんは泣いております。)

昔から、大工が材木屋に並んでいる木を買う時は、色物(和室の化粧柱)は立てて並べてある木肌を見て判断します。
例えば、桧柱の場合は、その年輪がぼんやりとしてハッキリしていない材がよろしいです。

一方、1等柱(隠れてしまう構造材)は梱包のまま積み上げてありますので、木口を見て判断してます。内部の木肌は木口から推測します。その場合は、なるべく年輪が密な材と、芯が偏っていない材が多く入っている梱包を選びます。

下の写真を見比べると一目瞭然でしょう。
「エッ?どっちがドコの産地かって?」
ウーン、一概には言い切れず、産地を公表するのはチト拙いので、伏せておきます。